横浜家庭裁判所 昭和37年(家)2115号 審判 1962年10月29日
申立人 高石ハナ(仮名)
被相続人 亡高石義蔵(仮名)
主文
被相続人亡高石義蔵の相続財産である
神奈川県高座郡寒川町一之宮字外川原○○○○番ノ○
宅地 六〇坪
を申立人高石ハナに与える。
理由
申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として、
(一) 申立人は被相続人の従兄亡高石進(亡高石進は被相続人の父亡高石啓蔵の長兄、亡高石十郎の子)の配偶者であつたものである(昭和一〇年三月二九日婚姻届、昭和二六年一〇月二九日夫進死亡)。
(二) 被相続人の父亡高石啓蔵はその兄高石十郎が戸主であつた高石家から大正四年八月一九日分家するに当り十郎から主文記載の宅地六〇坪、同番地所在、木造藁葺平家建住家一棟建坪二一坪、同町一之宮二〇四二番ノ原野一畝一〇歩を贈与された。(但し、宅地六〇坪については登記簿上は昭和四年四月一日売買により啓蔵が十郎から所有権を取得したことになつている)。次いで分家戸主となつた高石啓蔵が昭和一九年二月六日死亡したので、その推定家督相続人であつた被相続人が家督相続し(昭和一九年二月一二日家督相続届出)、上記各不動産の所有権を取得した。しかし、被相続人はその後間もなく召集をうけ、昭和二〇年五月二九日戦死したが、当時同人は独身で妻子なく、かつ、父啓蔵、母ツユ(昭和一四年四月三日死亡)兄文男(大正五年五月一八日死亡、独身)、妹ハル(昭和一七年五月一五日死亡、独身)、妹カヨ(大正一三年三月一五日死亡、独身)らも既に死亡しており、従つて法定家督相続人がなく、又指定並びに選定家督相続人もなかつたので、その家督相続人は存在しないままの状態であつた。
(三) 上記の如く高石啓蔵が死亡し、かつ被相続人が召集された後は、啓蔵の所有であつた上記家屋敷はいずれも本家戸主高石十郎において事実上管理し、一時他人にこれを賃貸していたがその後、昭和二一年一月頃被相続人戦死の公報もあり、かつ、偶々賃借人も他に転出して住む者がいなくなつたので、昭和二二年一一月頃高石十郎が当時借家住いをしていた申立人夫婦(夫進は復員直後であつた)を事実上被相続人の後継者として同家敷に入居させた。
(四) かくて申立人夫婦は爾来上記家屋敷に転住し、被相続人の後継者として同家の祭祀を主宰してきたが、昭和二六年一〇月二九日申立人の夫進が病死したので親族の高石タネ(被相続人の従兄高石勇の妻)高石三郎(被相続人の従兄)、大沢正(被相続人の従兄)をはじめ、その他親戚である高石みち、柳田強、今泉利男らが協議した結果、申立人に従前とおり被相続人の後継者として被相続人らの祭祀の承継並びに財産の維持をするように懇請があり、申立人もそれを承諾した。
(五) その後、上記家屋は老朽して使用に耐えられなくなつたので申立人が取壊し、その場所に申立人が亡夫進の死亡退職金などを資金にして現在の家屋(申立人名義、木造亜鉛葺平家、住家建坪一三坪)を新築し、引続きこれに居住し今日に至つている。
(六) 次いで、上記遺産中、原野一畝一〇歩が国鉄西寒川駅用地として寒川町に買収されることになり、そのため被相続人の相続財産の管理人が必要になつて、申立人は横浜家庭裁判所へ同管理人の選任を求め(昭和三五年(家)第二二六四号事件)、昭和三五年九月一日同裁判所によつて申立人がその管理人に選任された。爾来、申立人は管理事務を遂行し、昭和三五年一二月六日相続債権申出の公告をなし、更に申立人の申立によつて同裁判所が昭和三六年四月一三日相続権主張の催告をなし(昭和三五年(家)第三八六四号事件)昭和三七年四月一三日同催告期間が満了したが、相続人の申出はなかつた。
(七) その間、上記原野一畝一〇歩については申立人が昭和三五年一〇月二〇日上記裁判所の相続財産管理人権限外行為許可の審判をうけ(昭和三五年(家)第二二六五号事件)、寒川町に金五六、〇〇〇円で売却しその旨所有権移転登記を完了した。なお、上記売却代金は申立人が保管していたが、昭和三七年七月一六日前記裁判所において管理人の報酬として申立人に付与された。(昭和三七年(家)第一一〇五号事件)
(八) 申立人は上記のように被相続人との間に特別な縁故があるものであり、今次民法の一部改正によつて、かかる場合には家庭裁判所で相続財産の付与を受けられることを知つたので本申立に及んだものである。
と述べた。
そこで、当裁判所は
一 当庁昭和三五年(家)第二二六四号相続財産管理人選任審判事件同年(家)第二二六五号相続財産管理人権限外行為許可審判事件、同年(家)第三八六四号相続人搜索公告審判事件並びに昭和三七年(家)第一一〇五号報酬付与審判事件の各記録
二 筆頭者高石和吉、同高石啓蔵並びに同高石義蔵の各除籍謄本及び筆頭者高石進の戸籍抄本
三 主支記載の物件の登記簿謄本
四 大沢正、高石タネ、高石三郎並びに今泉利男の各照会に対する回答
五 当庁家庭裁判所調査官栗原幸男作成の調査報告書
を調査し、かつ、申立人、大沢正、高石タネ並びに高石三郎について各審問したところ、
申立人陳述の上記各実情が認められ、かつ、本件は民法第九五八条の三所定の期間内に適法に申立てられており、
その期間内に申立人以外の者から同趣旨の審判申立はなく、又当裁判所の調査したところでは申立人以外に被相続人の特別の縁故者はないものと認められる。
よつて、本件被相続人の相続財産である主文記載の不動産は申立人を民法第九五八条の三にいわゆる被相続人の特別の縁改者として、これに与えることが相当であるとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 菊沢保節)